よこはま物語その23
黄金劇場
「黄金劇場」は京浜急行「黄金町駅」から大岡川沿いに歩いて4分ほどの中区末吉町3丁目にあったストリップ劇場です。
1970年頃から40年以上続いた横浜ストリップ劇場の殿堂とも言える存在でしたが、2012年に度重なる公然わいせつ罪などで経営者が逮捕されてから休業状態が続き、残念ながら、2013年6月27日に閉館となりました。
その昔、劇場内にはヒロポン用の注射器が上からぶら下がっていたという逸話もあります。(ヒロポンは錠剤よりも注射液の方が効き目が強いので注射が当たり前になっていったのです。)
除倦覚醒剤 ヒロポン錠
覚醒剤は、明治時代の日本人薬学者長井長義氏とルーマニア人化学者が共同で有機化合物アンフェタミンとメタンフェタミンの人工的な合成に成功して誕生しました。
ヒロポンはもともと古代ギリシャ語の「Philo-ponus」(労働を愛するという意味)が語源です。
ネーミングには「疲労がポンと吹き飛ぶ」という意味合いもあり、これを服用すると眠らなくてもガンガン仕事や勉強ができるという触れ込みで、戦前は深夜労働者、受験生などに広まりました。
戦時中は、軍部の国策として増産を重ね、死の恐怖を吹き飛ばすために、特攻隊をはじめ、多くの兵士に支給されました。
ヒロポン錠は「突撃錠」と呼ばれるようになったのです。
終戦後、ヒロポンは軍の備蓄から大量放出され、闇市などに出回りました。「チュウ(焼酎)一杯よりもポン(ヒロポン)の方が安い」という時代で、「ポン中」(覚せい剤依存症患者)は推定200万人にもなりました。
戦後「青線地帯」「大岡川スラム」と悪名を馳せた黄金町はヒロポンやヘロインなどの麻薬密売の温床でもありました。1962年7月6日には、警察の一斉取締りで供給源を断たれた200人余りの中毒者が禁断症状を起こして路上に飛び出し、大きな事故や事件を引き起こしました。
この黄金町事件は日本中の大ニュースになったのです。
そして翌年の1963年に公開された黒澤明監督の「天国と地獄」でも、山崎努演じる誘拐犯人竹内銀次郎がちょんの間でシャブ中の売春婦に純度の高いヘロインを注射してショック死させるシーンはまさに黄金町が舞台でした!
戦前から大岡川の船運を活用した問屋街として栄えた黄金町(初音町・黄金町・日ノ出町地域一帯の通称です)は戦後高架下にバラック小屋の飲食店が建ち並ぶようになり、その店から「ちょんの間」(風呂もシャワーもベッドもなく、2畳ほどの部屋に布団か座布団を敷いて本番行為をする風俗店。時間は20~30分。)が現れ、大阪の飛田新地、沖縄の真栄原社交街と並んで「日本3大ちょんの間」エリアとなりました。
2002年以降の最盛期には270店舗ほどになり、約1,000人の外国人売春婦がいたとされています。
黄金町のちょんの間で客引きをする外国人売春婦たち
そんな黄金町界隈も2005年1月11日から始まった「バイバイ作戦」(2009年の横浜開港150周年に向け、神奈川県警が売春防止法や入管難民法による取り締まりを徹底的に行い、摘発されていた風俗店を一掃したもの)で「ちょんの間」がなくなりました。
2006年、文化芸術振興拠点の運営団体に選定されたBankART1929が「BankART桜荘」をオープン。
各地から集まったアーティストと地域住民が芸術活動を行うことで、地域健全化運動の先駆けとなりました。
2007年頃からは、ちょんの間を改装した若者向けのバーやカフェが増え始め、2008年には高架下に「文化芸術スタジオ」が建設され、アートを生かした新しい街づくり実行委員会による「黄金町バザール2008」が開催されるようになり、毎年続いています。
今では「青線地帯」「大岡川スラム」「ちょんの間」「麻薬密売の温床」の面影は全くなくなりました。
そんな黄金町駅から大岡川を越え徒歩5分ほどの末吉町4丁目角に「喫茶TAKEYA」があります。
喫茶TAKEYA
元々はご両親が昭和20年からここで「竹屋」という旅館を営んでいましたが、お客さんは進駐軍の兵隊さんとお相手の女性がほとんどだったので、時代とともに衰退傾向となり、1983年片岡孝夫さんが33歳の時に改装して喫茶TAKEYAをスタートしました。
ここにいると時間の流れがゆっくり感じられ、とても落ち着きます。
マスターの片岡さんが作るナポリタンもたまごサンドも焼きサンドイッチも絶品です!
片岡さんは、よこはま物語その6で紹介した小山成光さんと1968年18歳の時に元町のディスコ「リバーサイド」で出会い、一緒にハマチャチャを生み出した伝説のダンサー、伊勢佐木町のカタヤンさんその人なのです!
店内にはCDのジュ-クボックスもあり、片岡さんお気に入りのソウルミュージックが流れています。
今でも気が向くと、音楽に合わせて軽快なステップを披露してくれます。
たまにハマチャチャのレッスンもしてくれますよ!
猫のモモちゃんとなっちゃん
喫茶TAKEYAのマスター片岡孝夫さん
片岡さん、ここにしかない時間の流れをいつまでも守っていってくださいね!
さて、黄金町周辺を流れる大岡川は工場排水の垂れ流しや生活排水、ゴミの投棄、ダルマ船の放置で臭気漂うドブ川でしたが、1992年春からはじまった「大岡川桜まつり」プロジェクトにより、信じられないほどきれいな川に生まれ変わりました。
春になったら、喫茶TAKEYAの後、是非大岡川沿いを散歩してみてください!